籾殻くん炭づくりは違法?

米の収穫が終わると、各地で籾殻くん炭製造の悪臭被害の声が多くなります。

籾殻くん炭は、籾殻を炭化させたもので土壌改良材として利用され、保水性や通気性が良くなることから一部の農家や園芸家に愛用されています。

(写真AC)

 

燻炭は空気を遮断して不完全燃焼で作られることから、極めて強い悪臭が発生し有害物質も多く排出されていると予想されますが(有害性の文献不明)、有効な土壌改良材であることから農業におけるやむを得ない焼却とみなされ行政も認めているのが現状です。

 

被害者は泣き寝入りするしかないのでしょうか。

 

燻炭づくりは廃棄物処理ではありませんが、もみ殻自体は稲の廃棄物であることからその再生利用の過程においては廃掃法が適用できます。

(参考:行政処分の指針について(通知)令和3年4月14日、3ページ

 

ただし、やむを得ない焼却であるため廃掃法二十五条の罰則の適用ができません。

しかし、罰則の適用は悪質な野焼きを摘発するためのものなので、やむを得ない焼却であっても他の条項で取り締まることは可能です。

(参考:環循適発第 2111305 号令和3年 11 月 30 日

法第 16 条の2の規定において焼却禁止の例外とされる廃棄物の焼却に該当するとしても、同条に係る罰則以外の罰則及び行政処分の適用を除外するものではないことから、処理基準に適合しない焼却について、措置命令等の行政処分及び行政指導を行うことは可能であり、(略)したがって、廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令第 14 条各号に規定する焼却禁止の例外とされる廃棄物の焼却についても、当該焼却行為により、健康被害も含む人の生活に密接な関係がある環境に何らかの支障が現実に生じ、又は社会通念上そのおそれがあると判断するに相当な状態が生ずる場合等においては、処理基準に適合しない焼却行為として、措置命令等の行政処分及び行政指導を行うことは可能である

 

農家は事業者なので、廃掃法第三条により廃棄物を生活環境に支障が出ないように適正処理する責務があります。

廃掃法第十九条の三および 第十九条の四において、廃棄物処理基準に適合しない焼却に

より生活環境に支障が出た場合には市町村は改善命令または措置命令をすることができます。

さらに、命令に従わなければ罰則の適用も理論上は可能です。

(参考:ブログ「改善命令・措置命令と罰則」

 

生活環境に支障が出ているかどうかについて、一部からは「何日も悪臭が出ているならまだしも、数時間多少の煙が出るくらいは生活環境への支障があるとはいえない」という意見もあります。

生活環境への支障については、前出の『行政処分の指針について』によれば、「高度の蓋然性や切迫性までは要求されておらず、通常人をして支障の生ずるおそれがあると思わせるに相当な状態をもって足りる(30ページ)」と書かれていることから、臭くて洗濯が干せないなど、通常の生活ができなくなっただけでも十分に要件は満たしていると考えられます。

 

燻炭は確かに土壌改良材としては有効ですが、数ある農法の一つにすぎず生籾殻を使用する農家も多く、絶対に必要なものではありません。

(左から秋田県新潟県岩船農業振興協議会、近江八幡市の注意喚起)

 

(参考:三条市

煙で生活環境に支障を来す場合は違法となるため、現地を確認し、行為者に対して、もみ殻をすき込むように指導しています。 

(参考:横手市

くん炭製造のためのもみ殻焼きも、周辺の生活環境や交通などに影響を与える場合は原則禁止されております。

(参考:近江八幡市(検索当時の資料、現在は不明))

農家の皆様におかれましては「稲わら及び籾殻の鋤き込み効果」や「地域の住環境」に与える影響についてご理解いただき、焼却処理を避けてくださるようお願いします。 

 

 

以上より、行政は生活環境の保全を第一に廃棄物の適正処理の全責任を負う義務(廃掃法第四条、六条の二)があるため、苦情があれば不適正処理として改善命令(廃掃法第十九条の三)又は措置命令(第十九条の四)の行政指導ができます。

命令に従わなければ廃掃法第二十五条及び二十六条及び刑事訴訟法第二百三十九条を根拠に罰則を適用することができます(『行政処分の指針について(44ページ)』)。

 

 

<まとめ>

  • 籾殻くん炭づくりはやむを得ない焼却であるため廃掃法二十五条の罰則の適用ができない
  • しかし生活環境に支障があれば不適正処理として改善命令(廃掃法第十九条の三)又は措置命令(第十九条の四)の行政指導ができる
  • 籾殻くん炭は絶対に必要なものではなく、すき込みなど他の方法で利用できる
  • 行政指導に従わなければ罰則の適用もできる(廃掃法第二十五条及び二十六条)
  • もっと噛み砕けば、燃やした罪では罰金取れないが生活環境に影響を与えた罪で罰金が取れる

 

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