野焼きの通報をするにあたって、行政指導、行政処分、刑事処分の違いを知っていたほうが良いので解説します。
(注)筆者の個人的解釈も含まれます。内容に関するトラブルには責任を負えませんので自己責任でお願いします。
1.行政指導
行政指導とは、役所が、特定の人や事業者などに対して、ある行為を行うように(又は行わないように)具体的に求める行為(指導、勧告、助言など)をいいます。(行政手続法Q&A)
通常私たちが野焼きの通報をして市町村が現場に赴き行為者に注意をすることがこれに当たります。
行政手続は、行政手続法によって行われることになっていますが、一般市民は詳しく知らなくてもよさそうです。
長岡文明氏(BUN環境課題研修事務所、元山形県廃棄物対策担当)によれば、行政指導には二つのタイプがあります。
(1)「~ねばならない」 法的根拠型
法的根拠に基づき「~ねばならない」ことを指導するタイプ。
よほど悪質な野焼きでない限り、法令違反だからといって、すぐに行政処分、刑事告発をすると言うわけではなく、「野焼きをやめてください」と指導をします。
このタイプは本来法令に根拠を置いていますから、前述の通り、もし指導に従わない場合は行政処分へと発展していきます。
(2)「~の方が良い」 提案型
法的な根拠はないものの、「~の方が良い」と提案するタイプ。
法第〇条に基づきという法的根拠がないものの、廃棄物処理法に関して言えば「公衆衛生、生活環境保全の確保のため」といったものです。
野焼きの通報をすると、「違反ではないのでお願いしかできない」と言われることが多いですが、それがこのタイプです。
しかし、後述しますが、野焼きは処理基準(廃棄物処理法施行令第3条第2号イ)に違反した状態であるため、処理基準違反として行政処分は可能であり、「お願いしかできない」というのは役所の誤解であると思われます。
2.行政処分
環境省が発出している行政処分の指針(令和3年4月14日)では 、「違反行為に対し、行政指導をいたずらに繰り返し、何ら処分を行わないことは法の趣旨に反し、国民の不信を招きかねないものであることから、速やかに行政処分を行う」旨の記載があります。
行政処分には、主に改善命令と措置命令があります。
(1)改善命令
改善命令とは、処理基準に合っていないので、将来に向かって処理基準に合わせなさいという命令です。
第19条の3(読みやすく編集しました)
一般廃棄物処理基準に適合しない一般廃棄物の処分が行われた場合、市町村長は一般廃棄物の適正な処理の実施を確保するため、処分を行つた者に対し、期限を定めて、当該廃棄物の処分の方法の変更その他必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。
(2)措置命令
措置命令は生活環境保全上の支障が発生している(おそれを含む)場合に、その生活環境保全上の支障を除去せよという命令です。
第19条の4(読みやすく編集しました)
一般廃棄物処理基準に適合しない一般廃棄物の処分が行われた場合において、生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあると認められるときは、市町村長は、必要な限度において、処分を行つた者に対し、期限を定めて、その支障の除去又は発生の防止のために必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。
衛環78号(平成12年9月28日通知)及び環循適発第 2111305 号(令和3年11 月30日通知)によれば、焼却禁止の例外とされる廃棄物の焼却についても、処理基準を遵守しない焼却として改善命令、措置命令等の行政処分及び行政指導を行うことは可能であるとされています。
しかし、改善命令にしても措置命令にしても、現実的な「手続き」の課題があるため、現場の担当職員が即座に発せられるものではありません。
たいていの場合は、役所の課長や部長の決裁を取って初めて命令を発出できます。
したがって、「野焼きしていました」と書類に仕上げて、上司の決裁を取っているうちに燃え切ってしまうため、現実的には命令が下されることは期待できません。
普段、通報してすぐに消火してもらえるのは、措置命令ではなく、行政指導によるものです。
3.刑事処分
(1)間接罰
改善命令や措置命令などの行政処分に従わなかった場合、罰則が適用されます。
第25条(編集あり)
次に該当する者は、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
5 第19条の4第1項(措置命令)の規定による命令に違反した者
第26条(編集あり)
次に該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 第19条の3(改善命令)の規定による命令に違反した者
理論上は、焼却禁止の例外であっても、処理基準を満たさない焼却として、改善命令や措置命令の行政処分が下され、これに従わない場合、初めて罰則が適用されます。
しかし、先に述べたように、行政処分には事務的な手続きが必要なため、通報しただけでは行政処分が下されることは期待できず、罰則の適用がされることもなさそうです。
(2)直罰
焼却禁止の例外に該当しない違法焼却には、直罰規定により、即座に罰則が適用されます。
警察が見つければ一発で捕まり、市町村現場担当者が見つければ刑事告発しなければなりません。
刑事訴訟法
第 239 条第2項 官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。
身近で見られる野焼きの多くは、農業においてやむを得ないもの(施行令14条4号)でも、日常生活に必要かつ軽微なもの(施行令14条5号)でもないので、違反の可能性が高いですが、実際は、例外か違反かうやむやなまま、口頭注意だけで済まされる場合がほとんどです。
悪質で直ちに違反とわかる場合は逮捕となりますが、通常は身柄は拘束されずに警察に呼び出されて取り調べを受け、取り調べが終わると書類送検されます。
検察が有罪と判断すれば略式起訴され、簡易裁判所から略式命令が下され罰金が確定します。
ところが、検察が不起訴処分にしてしまうことも多いようです。
野焼きの場合、不起訴になる理由として考えられることは、嫌疑不十分か起訴猶予のどちらかと推測されます。
嫌疑不十分とは、有罪立証ができるレベルの証拠が収集できない場合です。
起訴猶予とは、被疑者が犯罪を犯したことは明白であっても、被疑者の境遇、犯罪の軽重及び情状などにより訴追を必要としない場合です。
野焼きが違法かどうかは、市町村によっても判断が分かれ、法学の論文のテーマになるほど難しい問題ですので、検察も有罪にすべきか判断できないのではないでしょうか。
検察が犯罪に該当しないと判断した場合は、野焼きにお墨付きを与えてしまうので、警察も市町村も書類送検せずに厳重注意で済ませてしまうこともあるようです。
このように、野焼きで有罪になるにはハードルが高く、行為者は注意を受けるだけで、いつまでも繰り返し、被害を受けた人たちはいつまでたっても苦しみから抜け出せないままでいます。
(この記事は悪質な常習者に困っている人向けに書かれています。通常の感覚を持っている人間ならば、注意を受けたら野焼きを止めてくれるはずです。被害を受けたら躊躇せず通報しましょう。)
4.改善命令の可能性
被害を受けた身としては、原則禁止であるのにいつまでも提案型(お願い)の指導のみで被害が継続することに納得がいきません。
繰り返す行為に対しては、刑事処分まではいかなくとも、行政処分にしてほしいところです。
令和3年通知では、法第16条の2の焼却禁止の例外は、法第25条第15号の罰則に対するものであり、その他の罰則や行政処分の適用を除外するものではないので、処理基準に適合しない焼却について、措置命令等の行政処分及び行政指導を行うことは可能である旨のことが書かれています。
措置命令は、煙害による生活環境への被害を止めるようにする命令ですが、改善命令は、将来に向けて市町村の指定する処理方法に改めるようにする命令です。
何日間も燃やし続けているのであれば措置命令が必要ですが、指導を受けても何度も繰り返す場合に対しては、将来に向かって市町村の指定する処理方法に改めるようにする改善命令のほうがふさわしいと思います。
そこで、改善命令の可能性について考察します。
(1)処理基準とは
廃棄物処理法第6条の2第2項により、市町村が行うべき一般廃棄物の処理基準は政令によって定められた基準である必要があります。
政令による処理基準は次の通りです。
廃棄物処理法施行令第3条第2号イ
一般廃棄物を焼却する場合には、環境省令で定める構造を有する焼却設備を用いて、環境大臣が定める方法により焼却すること。
つまり、焼却禁止の罰則の規定から除外された野焼きであっても、処理基準に満たない違法状態にあるということです。
(2)その他の法令
罰則の規定から除外された野焼きであってもその他の法令に違反している例は他にもあります。
第2条の4(編集あり)
国民は、廃棄物の適正な処理に関し国及び地方公共団体の施策に協力しなければならない。
第3条第1項
事業者は、その事業活動に伴つて生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない。
第3条第3項(編集あり)
事業者は、廃棄物の適正な処理に関し国及び地方公共団体の施策に協力しなければならない。
第6条の2第4項(編集あり)
土地の占有者は、一般廃棄物については、市町村が行う一般廃棄物の収集、運搬及び処分に協力しなければならない。
環境基本法第8条
事業者は、事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動を行うに当たっては、これに伴って生ずるばい煙、汚水、廃棄物等の処理その他の公害を防止し、又は自然環境を適正に保全するために必要な措置を講ずる責務を有する。
(参考)
「環境と調和のとれた農業生産活動規範について(農水省)」
作物残さ等の有機物についても利用や適正な処理に努める。
(3)稲わら焼却と改善命令
稲わら焼却は、焼却禁止の例外の筆頭に挙げられることが多いですが、例外の具体例はあくまでも例示に過ぎず、真に例外かどうかは法目的に照らして個別に判断しなければなりません。
実際、稲わら焼却は、やむを得ず行われている実態になく、害虫駆除の効果も肥料の効果もなく、むしろ土づくりには逆効果であるので、多くの自治体ですき込むように指示がされ、新潟や秋田では明確に禁止とされています。
したがって、厳密にいえば稲わら焼却は第16条の2に該当せず罰則の対象になり得るのですが、やはり市町村も例外としての認識が強く、これを覆すのは容易ではありません。
それならば、罰則を伴わない改善命令ならば、少しはハードルが下がるのではないでしょうか。
改善命令発出を求める根拠は次の通りです。
- 令和3年通知により、処理基準に満たない焼却は行政処分の対象になり得ること
- 令和3年通知により、著しい被害を伴う焼却は例外に該当しないこと
- 国民(事業者含む)は市町村の廃棄物処理政策に従う責務があること
- 稲わらの処分はすき込むよう広報や農業指導指針等に記載されていること
- 平成30年通知により、稲わらの焼却はPM2,5の上昇に影響を与えるため、野焼きを減らすための有効な取り組みが求められていること
- 稲わらの焼却により、長時間にわたり大量の煙と悪臭が発生し、窓が開けられない、洗濯が干せない、喘息発作が収まらないなど、生活に著しい影響が出ていること
- (すでに指導を受けている場合)通知「行政処分の指針」により、いたずらに行政指導を繰り返すことなく躊躇なく行政処分するよう求められていること
- 今まで市町村自らが黙認してきた稲わら焼きに対する処分としては、罰則を伴う刑事処分よりも改善命令がふさわしいと思われること
改善命令をしてもらうためには、燃えている状態の時にお願いしても無駄です。
なぜなら、命令の発出には手続きに時間がかかるからです。
かといって、燃えていないときに電話でお願いしても聞き入れてもらえないでしょう。
そのために、数回は通報の実績があることが必要です。
市町村に対し、野焼きの常習者であることを認識してもらいます。
そのうえで、再度被害を受けたら、しっかり証拠をとって「改善命令発出要望書(告発状)」を持って役所にお願いに行きます。
もし改善命令が発出されたら、普通の感覚であればもう二度と燃やすことはなくなるでしょう。
それでも燃やすのであれば、いよいよ改善命令に従わなかったとして罰則(第26条)が適用できます。
焼却禁止違反で告発しても、嫌疑不十分か情状酌量で不起訴になる可能性がありますが、改善命令に従わない罪の場合、何度も指導を受けている実績があることから、起訴される可能性が高くなると思われます。
5.証拠のとりかた
市町村に事後報告しても、「現場を見ていないので指導できない」と言われることがあります。
そのため、現行犯ではなく事後報告で告発するためには、それなりの証拠が必要になります。
行政処分の指針によれば、以下の資料があることが望ましいようです。
- 違反行為者の氏名
- 違反行為の日時
- 違反行為の対象となった廃棄物
- 周辺の生活環境への影響(PM2,5の測定値、煙の状況、健康被害の詳細など)
- 苦情の実績
- 違反行為の回数(少なくとも何年何月から何年何月にかけておよそ何回)
- 違反行為者への過去の指導状況
- 廃棄物に点火している状況、廃棄物が燃焼している状況、燃焼している廃棄物に更に廃棄物を投入している状況の写真や動画
ここまでの流れは、あくまでも理論上のものですが、いくら電話で通報しても何も変わらないのなら、これくらい準備してお願いしなければ何も変わらないのではないでしょうか。
逆に、これだけの法的根拠があるにも関わらず、市町村が行政処分を行わずに行政指導を繰り返すだけなら、市町村は法律違反(ブログ「市町村の責務」参照)を犯していることにもなります。
とにかく、市町村や警察に野焼きの苦情を申し立てるのであれば、私たちも法律による根拠をしっかりと頭に叩き込んでおかなくてはなりません。
(注)ここまでの内容は筆者の個人的解釈も含まれます。内容に関するトラブルには責任を負えませんので自己責任でお願いします。
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