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中国東北部のバイオマス燃焼由来のPM2.5越境汚染に関する大気質モデル解析


中国東北部のバイオマス燃焼由来の PM2.5 越境汚染に関する大気質モデル解析

― 2019 年 3 月北海道における PM2.5 高濃度汚染事例―

大気環境学会誌 第55巻 第2号(2020)

大阪大学大学院工学研究科 浦西克維ほか

https://www.jstage.jst.go.jp/article/taiki/55/2/55_34/_pdf/-char/ja

 

【抄録(オリジナル)】

2019 年 3 月上旬に北海道地方で発生した PM2.5 高濃度汚染の要因を解明するため、同時

期に中国東北部で大規模発生したバイオマス燃焼 (BB) に注目し、大気質モデル CMAQ

を用いた感度解析を実施した。BB 排出インベントリには GFAS を用いた。

2019 年 2 月下旬の中国東北部の平均気温は平年値より約 10 ℃高く、早期に雪解けが発生

し農地等での BB が起こりやすい条件が整っており、大規模なホットスポットが衛星で観

測された。また、GFAS も例年の 10 倍以上の規模の BB 排出量を推計していた。中国東

北部および周辺で発生した BB が中国国内の PM2.5 濃度および日本(北海道地方、東北地

方)の PM2.5 濃度に与えた影響を解析するため、標準ケースに加え、BB 排出量を増加さ

せた複数のケースについても計算を実施した。標準ケースでは、2019 年 2 月下旬‒ 3 月上

旬の中国東北部、日本の PM2.5 濃度を過小評価したが、中国東北部の農地由来の BB 排出

量を増加させたケースではこの期間の過小評価が改善した。2019 年 2 月下旬‒ 3 月上旬の

日本の PM2.5 濃度は中国東北部内の BB の影響を強く受けていること、GFAS は中国東北

部の農地由来を主とする BB 排出量の推計値を過小評価している可能性が高いことが明ら

かとなった。今後、中国東北部で同規模の BB の発生が常態化すると、日本への PM2.5 高

濃度汚染が継続的に発生するおそれがある。

 

【当会による解説(清水)】

国外発生源の大気汚染物質が国内に越境することは西日本において多くみられるが、北

海道でも観測されている。今回の研究では、衛星観測により、シベリアの森林火災のみな

らず、中国東北部(遼寧省、吉林省、黒竜江省)からのバイオマス燃焼が、北海道に流れ 2019

年 3 月初旬に発生した北海道地方の PM2.5 高濃度汚染は、中国東北部の農耕地のバイオ

マス燃焼の影響を日平均で最大 20 μ g/m3 程度受けていると推計された。今後、冬季に

同規模のバイオマス燃焼が中国東北部で発生し、北西からの風が吹く等の気象条件が重な

った場合には、北海道地方等で同様の PM2.5 高濃度汚染が再発するおそれがあるとのこ

とである。野焼きの煙は何百キロも離れたところにも飛来する恐ろしいものだということ

を理解していただきたい。なお、本会副会長の清水は北海道に住んでいるが、ちょうどこ

のころ、自宅のある旭川市においても、仕事場のある和寒町(旭川市の北約 30 ㎞)にお

いても、しばしば「今日はなんだか焦げ臭い臭いがする」「漏電など、何か異常はないだ

ろうか」と思うことがあった。あとになって、中国東北部やシベリアからの PM2.5 だと

気が付いた。統計は取っていないが、2019 年が最も「焦げ臭い」と思うことが多かった。

清水は 1991 年頃から喘息をわずらっているが、症状は咳のみであったが、2019 年 8 月か

ら悪化し、呼吸困難や息切れ、胸痛などを起こし、就業不能なほどとなったが、その 5 か

月前に起こった本報告の、中国東北部からのバイオマス燃焼物質が関係しているのかも知

れない。