前回、「軽微なたき火とは?」について書きましたが、今回は「やむを得ない」について考察します。
焼却禁止の例外は以下のようになっています。
第16条の2(焼却禁止の例外)
何人も、次に掲げる方法による場合を除き、廃棄物を焼却してはならない。
三 公益上若しくは社会の慣習上やむを得ない廃棄物の焼却又は周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である廃棄物の焼却として政令で定めるもの
政令第14条
四 農業、林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却
五 たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であつて軽微なもの(以降簡略し「軽微なたき火」とします)
では、農業を営むための「やむを得ない」とは何なのか?
今回も法学道場を元に考察します。
①文理解釈
「やむを得ない」をデジタル大辞泉(小学館)で検索すると、
そうするよりほかに方法がない。しかたがない。
と書かれています。
「他に方法が無い」ということが非常に重要なポイントです。
②-1 拡張解釈
意味を広げて解釈すると、
「適正処理するのが面倒くさいからやむを得ず燃やす」
「適正処理する費用が勿体ないからやむを得ず燃やす」
など、どんな言い訳にも通用してしまいます。
②-2 縮小解釈
意味を縮小して解釈すると、
「燃やすより他の選択肢がなくやむを得ず燃やす」
となります。
拡張解釈をとるか、縮小解釈をとるかですが、立法者意思と目的論的解釈が重要になることは前回書きましたが、重要なのでもう一度書きます。
廃掃法の目的は、
「廃棄物の適正処理をもって生活環境を守ること」
です。
国は法の施行に際し、次のような通達を出しています。
廃棄物の処理及び清掃に関する法律の施行について(昭和46年10月16日)
(概要)現状に即応した廃棄物の処理体制を確立し、もって生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることとするものである。
廃掃法は、公害対策基本法その他の公害関係諸法、地方自治法、保健所法等との関連が極めて密接であるので、法の施行にあたっては、これらの諸法との関係を十分に考慮し、万全を期せられたいこと。
これらより、法の解釈には生活環境の保全が絶対条件であることは明らかです。
農業を営む以上、事業者としての責務もあります。
廃棄物の処理及び清掃に関する法律
第三条 事業者は、その事業活動に伴つて生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない。
2 省略
3 事業者は、前二項に定めるもののほか、廃棄物の減量その他その適正な処理の確保等に関し国及び地方公共団体の施策に協力しなければならない。
廃掃法の施行にあたっては、「諸法との関係を十分に考慮し、万全を期せられたいこと」と、通達(厚生省環784号)にも記されており、他の法律も考慮する必要があります。
環境基本法
第八条 事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動を行うに当たっては、これに伴って生ずるばい煙、汚水、廃棄物等の処理その他の公害を防止し、又は自然環境を適正に保全するために必要な措置を講ずる責務を有する。
2 事業者は、基本理念にのっとり、環境の保全上の支障を防止するため、物の製造、加工又は販売その他の事業活動を行うに当たって、その事業活動に係る製品その他の物が廃棄物となった場合にその適正な処理が図られることとなるように必要な措置を講ずる責務を有する。
3 省略
4 前三項に定めるもののほか、事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動に関し、これに伴う環境への負荷の低減その他環境の保全に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策に協力する責務を有する。
循環型社会形成推進基本法
第十一条 事業者は、基本原則にのっとり、その事業活動を行うに際しては、原材料等がその事業活動において廃棄物等となることを抑制するために必要な措置を講ずるとともに、原材料等がその事業活動において循環資源となった場合には、これについて自ら適正に循環的な利用を行い、若しくはこれについて適正に循環的な利用が行われるために必要な措置を講じ、又は循環的な利用が行われない循環資源について自らの責任において適正に処分する責務を有する。
2 省略
3 省略
4 循環資源であって、その循環的な利用を行うことが技術的及び経済的に可能であり、かつ、その循環的な利用が促進されることが循環型社会の形成を推進する上で重要であると認められるものについては、当該循環資源の循環的な利用を行うことができる事業者は、基本原則にのっとり、その事業活動を行うに際しては、これについて適正に循環的な利用を行う責務を有する。
5 前各項に定めるもののほか、事業者は、基本原則にのっとり、その事業活動に際しては、再生品を使用すること等により循環型社会の形成に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する循環型社会の形成に関する施策に協力する責務を有する。
バイオマス活用推進基本法
第十六条 事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動に関し、自ら積極的にバイオマスの活用の推進に努めるとともに、国又は地方公共団体が実施するバイオマスの活用の推進に関する施策に協力するよう努めるものとする。
これらより農業を営むうえで、
- 環境保全の責務
- 廃棄物の適正処理の責務
- バイオマスの循環利用の責務
- 国や地方公共団体の政策に従う責務
などの責務があることがわかります。
国や地方公共団体の政策について掘り下げます。
国連が定めた全ての国、団体、人の行動目標です。
「誰一人取り残さない」社会を実現するため、
・循環型社会の構築
・持続可能な農林水産業の推進
・大気保全・化学物質規制対策
などの行動目標が定められています。
農水省が定めた農業の活動規範です。
・土づくりの励行
たい肥等の有機物の施用などによる土づくりを励行
・廃棄物の適正な処理・利用
作物残さ等の有機物についても利用や適正な処理に努める
農水省が定めた農業の環境規範です。
・土づくりの励行
たい肥の施用や稲わらのすき込みなど
有機物の供給に努めましょう
・廃棄物の適正な処理・利用
稲わら、野菜くず等の作物残さのたい肥、
飼料等への再利用やほ場へのすき込みなど
をしましょう
環境省からの通達です。
・煙を伴う稲わら焼きなどの野焼き行為によって、PM2.5 質量濃度の上昇に、直接的に影響を与える場合がある
・稲わら等の有効利用の促進に関する様々な取組は、継続して野焼き行為を減らしていける取組である
環境省主催の大気汚染防止運動です。
野焼きをやめましょう
野焼きはPM2.5濃度の上昇に影響を与える場合があるため、稲わら等を有効利用することによって、野焼きをやめましょう。なお、野焼きは法律により原則として禁止されています。
地方公共団体からも野焼き防止のためのチラシが発行されています。
国も地方公共団体も
・野焼きを止めましょう
・有機物を有効活用しましょう
と啓発しており、事業者はこれに従う責務があります。
そもそも、農業において本当に焼くより他に方法がない状況とはあるのでしょうか。
現代農業において、稲わら・もみ殻は燃やす必要がなく、土づくりに活かすことが常識になっています。
- 麦わらを燃やしても雑草は減りません(佐賀県)
- ⻨わら・稲わら・もみ殻などの農作物に由来する有機物は、田畑へすき込むことで、排⽔性・保⽔性・保肥⼒を高めることができます(香川県)
- 10a当たりの稲わら生成量は約500kgありますが,燃やすと無機質になり土づくりの効果がほとんどありません(千葉県)
- もみ殻の約 2 割はケイ酸分であるため、単収 540kg のほ場のもみ殻を全て田んぼに戻すと、ケイカルを約 80~100kg 散布したのと同等の効果が期待できます(新潟県)
以上を総合的に判断すると、法の解釈としては、「生活環境を保全するために燃やさない事を前提とし極力再利用に努め、燃やすより他に方法が無い時のみ、罰則規定から除外される」と解釈するのが妥当ではないでしょうか。
(追記)
平成29年9月15日、環境省は兵庫県警の疑義に対し以下の回答をしました。
環循適発第1709151号(平成29年9月15日)兵庫県警察本部長宛
『廃棄物の処理及び清掃に関する法律第16条の2に関する疑義について(回答)』(概要)稲わらの焼却は例示に過ぎずやむを得ないもの(例外規定)に該当するか否かは、個別具体的事情の下において、地方公共団体において、法目的に照らして判断されるものである。
これにより、たとえ稲わらであっても、法目的に照らせば安易に燃やすことは禁止されるべきで、罰則の適用も可能であることがわかりますね。
<まとめ>
農業を営むための「やむを得ない」野焼きとは?
- 法の目的は「廃棄物の適正処理をもって生活環境を守ること」である
- 廃棄物の適正処理と生活環境の保全に関し多くの通達が出ている
- 稲わらや作物残さなどのバイオマス資源は堆肥などに循環利用する責務がある
- 国も地方公共団体も「野焼きを止めましょう・有機物を有効活用しましょう」と啓発している
- 農業において燃やさなければならない状況はほとんどない
などを考慮し、
生活環境を保全するために稲わらなどのバイオマス資源は再利用に努め、利用できないものは市町村の指定する方法で適正処理し、燃やすより他に方法が無い時のみ罰則規定から除外される
と解釈するのが妥当です。
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